なぜハエが研究に使われているの?

モデル生物とは

研究でよく使われる生物というとみなさんマウスやモルモットが思い浮かぶと思います。
薬の効能を調べたり、構造を調べたりするのにこれらの動物で検証してから、実際の臨床実験に移行するというイメージだと思います。

そのイメージは間違ってはいないのですが、他にも研究で使われる生物はたくさんいます。
メダカ、ゼブラフィッシュ、線虫、大腸菌、酵母、キイロショウジョウバエ、アフリカツメガエル、シロイズナズナ、カイコなどなど。。。。
これらの生物はモデル生物と呼ばれており、様々な研究が行われています。

モデル生物とは、その生物を徹底的にみんなで調べることによってその生物を知り尽くし、他の生物に共通する部分や原理の理解を行おうという生物たちです。

キイロショウジョウバエとは

このラインナップを見て意外な生物がいくつかいると思いますが、その中でもキイロショウジョウバエはかなり異質だと思います。
え?ハエ???あの家に出てくるやつ???

そうです!
キイロショウジョウバエの学名はDrosophila melanogasterです。
様々なノーベル賞の研究に関わっており、広く研究に使われています。

ハエの研究者が集まる日本ショウジョウバエ研究会(JDRC)をはじめ、アメリカやヨーロッパ、アジアなどでもハエの研究の学会があり、さらにはショウジョウバエの神経系のフォーカスしているNeuroFlyやNeurobiology of Drosophilaなど世界規模で研究が行われています。

ハエの研究のメリットは
・中枢神経系を持っていること
・遺伝学ツールの豊富さ
・バランサー染色体の存在
・世代時間が短いこと
・飼育のしやすさ
・決まった行動パターンを示す

などなど、たくさん挙げられます。
世界中の研究者がキイロショウジョウバエという対象を研究することによって、大量のデータベースが作られており、脳では神経細胞と神経細胞のつながりのネットワークほとんど全てわかっています。

ここまでくると、研究でやることないのでは?と思われるかもしれませんが、確かに神経の繋がりはわかっていますが、それがどのような機能を持っているかはわかっていないことが多いです。

さらには、免疫系や発生などのパターンに関しても、そこにどのような分子が関わっているのかなど、わかっていない問題が大量にあります。

ここまでやって何になるの?と思うかもしれませんが、ここまでやるからこそ、生物に普遍的な原理を見つけ出したりすることができるのです!
これがモデル生物です。

そして、これらの機構は薬の開発や安全な遺伝子組み換えなどに応用することができます。

ショウジョウバエ研究の歴史

1901年になんか有名な人(チャールズ・W・ウッドワース氏)がある人(ウィリアム・アーネスト・キャッスル氏)に遺伝学の材料として勧めたのが始まりとされてるらしいです。
理由としては、大量飼育が簡単にできるから。とのことです。

その後、トーマス・ハント・モーガン氏がショウジョウバエを使った遺伝学の研究で有名になります。突然変異体の発見や、遺伝子が染色体状にあることを証明したことなど、遺伝学に大きな影響をもたらしました。

その後、発生に大きな影響を与えるホメオティック遺伝子の発見が重要な発見として挙げられます。
さらに、時計遺伝子の発見にも大きな影響を及ぼしました。

大量に飼育でき、昆虫であり、変異体を簡単に作成できるという利点は他の生物にないメリットであり、だからこそ遺伝学の研究の材料として非常に秀逸なものでした。

現在では、GAL4/UASシステムの応用、バランサー染色体などが作られ、多様なツールも整備されてきています。

追加話

ショウジョウバエの研究をしている研究室では、バイアルと呼ばれる直径3センチ、縦が10センチぐらいの円柱で飼育しています。
そして、そのバイアルが大量に置かれている飼育部屋と呼ばれる部屋が大体あります。

ハエが汚いのでは?と思う方もいると思いますが、餌は酵母の入ったゼリーのようなものであり、生肉等をあげているわけではないので、菌が増えるといったことはありません。

生命力は割と強く、比較的簡単に飼育できます。
だからこそ、長く研究されてきているのでしょう。

解剖等をするときは、実体顕微鏡を使って、ピンセットで手作業で行います。
長さが2.5mmぐらいのハエをピンセットで解剖します。

行動実験もすることができ、工夫の凝らされた装置で様々に研究が行われています。

また、ハエの素晴らしいところは世界のいくつかの場所にストックセンターがあり、そこにはどこかの研究室で制作した特定の遺伝子操作を施したハエがたくさん飼育されている場所があり、そこから欲しい系統を手に入れることができます。

なので、自分自身でハエの系統を作る必要がなく、すぐに実験を開始することができます。
(自分で遺伝子を操作しようとすると3ヶ月以上はかかります。)
まさに、巨人の肩の上に立つですね。

ショウジョウバエの研究を始めると、他の生物の研究ができなくなると生物学者は言っており、ショウジョウバエは研究に適している生物であることを物語っています。

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